気付いて見れば、そこら中に、戦争の影響が見られるようになっていた。
軍事用の飛行機が空を飛び交い、御殿場からのドーンドーンという音が絶え間無く響くようになった。厚木基地の近くにある、近所のおばさんの実家が着陸ようの滑走路を作るため、取り壊されることになったらしい。
こんなことになるなんて、誰か、予想していただろうか?
もうこうなってしまったら、どうしようもないような気がした。
誰のために、何のために隆は死んだのか…
誰のせいで死んだのか…。
わからなかった。
だれを何を恨めばいいのかもわからない。
ただ一つの命を簡単に奪った戦争、それが当たり前のように流されていくことに激しい憤りを感じた。
なんのためにみんな戦ってるの?
みんな願いは一緒だろう。
なんでその願いを共有できないのか。
隆が死んでから、三ヶ月たったある晴れた朝。
あいはいつもの朝を迎えていた。
階段から急いで下りてきて、真っ先に時刻表を確認する。
「チッ。時刻表変わったんだった。待て待て今は」
テレビに表示されている時間を見る。
「8時…次は…17分ギリギリじゃん」
急いで学校へいく準備に取り掛かる。
階段から着替えて走って下りてくる。
鏡の前で身なりをチェック。
携帯がポケットに入ってるのを確認。
「携帯オッケー。あっそうだレポート」
レポートを取りにテーブルへ行く。
そしてテレビで時間を確認。
8時10分。テレビを消し急いで玄関へ走って行き、自転車の鍵を取り、靴を履こうとすると、靴下を履いてないことに気付く。
「あっ靴下!」
急いで階段を上り靴下を履いて下りてくる。
鍵を閉め、自転車に乗り、自転車をすっ飛ばしす。
自転車置場に自転車を置き携帯で時刻を確認。
8時16分。
ダッシュで駅に向かう。
しかし、自動改札の前で、電車が出発してしまう。
「はぁはぁ…チッ、マジかぁー」
家に帰ってあやに電話をする。
「ごめん乗り遅れた。出席の紙代わりに書いてくれたらうれしいんだけど…。うんありがと。今度からは絶対行くから。うん。わかった。じゃ」
朝ごはんの準備をして、やっと少し落ち着いた。
朝ごはんを食べていると、今日印鑑を学校へ持っていかないといけない事に気付いた。
「あっ今日印鑑使うんだ」
印鑑をとりに二階に上がり、机の中から、印鑑を探す。
「あれーどこいった?」
机の上に、女バスと隆たちと一緒にとった写真が飾ってある。
机の中から懐かしいものを見つけた。
高校時代、隆たち男バスと試合帰りにとったプリクラだ。
ふと机の上に飾ってある写真を見る。
そのプリクラを、一枚切り取り、一階に持って行く。
そのプリクラを携帯に貼ってみる。
しばらくそのプリクラを眺めていると、なんだか熱いものが込み上げてきた。
テレビのリモコンが目に入り、テレビを着けた。
すると東海大学前がテレビに映っている。
「ん?」
「東海大学前から中継です。午前8時30分頃下北沢、相模大野、東海学園前、本厚木、玉川学園前で大きな爆発がありました。爆弾テロと思われます。通勤、通学の学生を狙ったテロでしょうか。東海大学前では大惨事になっております。」
「えっ」
しばらく呆然とニュースを聞いている。
何がなんだかわからない。
「はっ」とし、携帯を見る。
『まさか…そんな訳…』
急いであやに電話をする。
手が震えて、うまくボタンが押せない。
あやの携帯からは
「現在おかけになった電話は電波の届かないところにいるか……」という、台詞が聞こえてくる。急いで携帯を切り、急いでえみにもかけてみる。
ところがえみの携帯からも
「現在おかけになった電話は電波の届かないところにいるか電源が入っていないためかかりません……」という台詞が…。
携帯をゆっくりと下ろし、座り込む。
じっと携帯を見つめていた。
携帯の台詞が、いつまでも耳の奥で繰り返されていた。
今日も、今この瞬間も、戦争は誰かの命を奪っている。
この犠牲の上に本当に平和は訪れてくれるのか。
戦争しないと平和を築けない。
そんな考えがひしめく世の中だ。
でもそれは違うだろう。
戦争はしてはいけない。
戦争は、殺し合い、傷つけあい、街も、人も、心も、破壊する。
これが平和を築く手段といえるのか。
戦争は失うものが大きすぎる。
そして一生消えない傷跡を残す。
なにかを亡くすってそういうことだ。
戦争はしてはいけない。
そんな大切な事をすぐに忘れてしまう。
あの戦争の後にもう戦争は起こさないと、みんなそう誓ったはずなのに。
何度同じ事を繰り返すのか。
たった一つ言えること、今も昔もそれは変わらない。
戦争は、良い事なんて一つもない。
おわり